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引戸の家 
        2020

所在地 : 千葉県

用途 : 共同住宅(リノベーション)

竣工 : 2020年7月

規模 : 83.78㎡ 構造 : RC造

階数 : 地上1階(対象住戸)

施工 : 東協建築(現:RINZ)

​撮影 :  Forward Stroke Inc.

受賞 : 第39回住まいのリフォーム

     コンクール 優秀賞   LINK

    K-DESIGN AWARD '21

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    A' Design Award '22

​      IRON Award       LINK

​掲載 : architecturephoto  LINK

​   月刊リフォーム23年5月号

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 RenovationDesignVol.2 LINK

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バーティカルブラインド ​撮影: Masaki Suzuki

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120インチスクリーン ​撮影: Masaki Suzuki

『これからの住まい』

 

1. 引戸と開き戸

 

 日本の建築には昔から引戸が多く用いられてきた。日本の建築には縁側空間があり、日本人は雨戸や障子といった引戸を活用し、外部の自然や人との繋がり方をコントロールしながら暮らしてきた。このように外部環境との繋がり方をコントロールする装置を、集合住宅の住戸内でも活用することはできないだろうか?そんな考えから今回の改修プランは検討された。

 

 ごく一般的に言って、集合住宅の住戸内廊下は暗く閉鎖的である。これは宿命と言っても過言ではなく、限られた採光は当然ながら居室に割り当てられ、住戸内廊下は無採光でスペースは最小化されるためである。今回の改修前住戸には、そんな住戸内廊下に対して、合計5つの開き戸が付いていた。

 

 開き戸は開くか閉じるかはっきりした建具である。どちらかと言えば住宅においては閉じている状態が通常で、閉じた部屋を一時的に通行可能にする建具であると言えるだろう。当然、扉を開ければその分部屋や廊下のスペースを使い、閉じている方が空間がすっきり見えるのが通常である。

 

 これに対して引戸はどうだろうか。平面図では一次元的な枠の中で、開いても閉じても扉に使うスペースは枠内に納まり、引き込み戸や雨戸のように、開いている状態を通常とする場合も多いし、完全に開、又は閉の状態に加えて、外の音が聞こえるように少しだけ開けたり、視界をコントロールするため少しだけ閉めたりと、周辺環境との様々な繋がり方をつくり易い特徴がある。開き戸に比べて、開くことと閉じることの境界は曖昧にされ、こちら側と向こう側の間の距離感をコントロールできる。言わば、繋がり方の調整弁の役割を果たすのである。

 

2. 引戸の家

 

 そこで今回のプランは、寝室と廊下を壁で区切るのではなく、10枚の連続引戸で仕切ることにした。10枚の引戸は二本のレールに乗り、開いていても閉じていても美しい状態を保つことができ、こちら側とあちら側の繋がり方の度合いをコントロールすることができる。連続引戸を開けておくと、午前中、寝室の窓からの光が廊下側まで優しく照らし、通常閉鎖的になりがちな住戸内廊下に、光と開放感を与えることができる。廊下は玄関から連続したタイル仕上げとすることで、日本の町家の通り土間のように、伸びやかで開放的な空間を目指した。子供部屋はまだ小さい子供が将来自室を持てるように4枚の引戸で仕切ることができ、廊下との間の棚は引戸を開ければ廊下からも使うことができる。つまり、部屋と廊下の境界を曖昧にしているのである。

 

 広く開放的なLDKの一角には在宅ワークスペースを設けた。ワークスペースはガラス引戸によって仕切ることができ、家族の様子を見守りながら仕事をすることができるし、引戸の開閉で家族との繋がり方をコントロールすることができる。ワークスペースの反対側にはオープンキッチン、その裏には室内干しのできるランドリークローゼットを置いた。行き止まり廊下を作らないことで、機能的な家事動線を実現すると共に、常に家族の気配を感じながら家事を行うことができる。

 

 ワークスペースのデスクと、テレビボードやダイニング収納扉は、連続引戸と同じシナ合板で製作し、明るいフローリングと合わせて明るい居住空間とした。その一方で、施主所有の家具には濃色の木目が特徴的なテーブル、チェア、ソファがあったため、ガラス引戸の框やシステムキッチンの面材は濃色の木目に寄せることで、全体のバランスを図っている。キッチンからユーティリティの床は廊下と同じタイル張りとし、廊下からの体験が連続するように意識した。

 

 LDKに面した大きな窓には、引戸同様開けても閉めてもすっきり見えるように、カーテンではなくバーティカルブラインドを採用した。リビングの垂れ壁部分にはピクチャーレール、ライティングレール、プロジェクター投影用の120インチスクリーンが隠されており、様々なリビングの使い方、人の集まり方に対応できるようになっている。

 

3. これからの住まい

 

 古くから日本では仕事場を兼ねる書斎を持つ住宅が数多くあった。近年では、働くオフィス、寛ぐ家の他に、一人で集中して仕事をしたり、資格の勉強をしたりできる、シェアオフィスや会員制の自習室が増え、カフェで仕事に打ち込む人も数多くいる。そんな中、2020年、世界中を襲った新型コロナウイルスの猛威により、我々のライフスタイルは一変した。積極的に直接人に会わなくなり、会議や打合せはオンライン中心となり、在宅ワークが急速に普及した。外で働いていた人は家の中で仕事をするスペースが必要になり、学生も在宅でオンライン授業を受ける必要が生じた。書斎から外に出て仕事をしていた人たちが家に戻ってきた。

 

 しかしながら住宅のスペースは限られているし、小さい子供がいれば様子を見守る環境も必要になる。そういった状況下でも、引戸の開閉や扉の仕様を工夫することで、広い部屋に集まったり、個室に閉じこもったりと、限られた空間の中でも、そこで過ごす人同士が様々な距離の取り方を選択することができる。このように、繋がり方に選択の幅があることこそが、家で寛ぎ仕事もするという、これからの住まいの一つのあり方なのではないだろうか。

BEFORE

AFTER

1. 玄関
2. 廊下
3. リビング
4. ダイニング
5. キッチン
6. ワークスペース
7. ランドリークローゼット
8. 洗面室
9. パウダーコーナー
10. 浴室
11. ウォークインクローゼット
12. 主寝室
13. 寝室(子供部屋)
14. トイレ
15. テラス
16. 専用庭
17. 設備スペース
18. 共用廊下
19. 中庭
20. 隣接住戸

​⇔. 引戸

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​改修前 LD、和室

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​改修前 廊下

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